【北アルプス縦走 ルートα〜第五話〜】 2024-07-11

DAY5
烏帽子小屋→南沢岳→不動岳→船窪岳→七倉山荘→下山

3時ぐらい、まわりのテントが撤収される音で目が覚める。昨夜は雷雨で寝付きが悪かったけどいつの間にか爆睡していた。

4時過ぎ、歩きはじめる。昨夜の雷雨が嘘みたいに天気がいい。烏帽子岳も綺麗に見えるけど昨日登ったのでスルーする。


烏帽子岳を過ぎたあたりから草や道がだんだんワイルドになってくる。


昨夜の雷雨で草木がびしょ濡れなのでレインウェアを着る。下半身はショーツだし、いい天気だから歩いてれば乾くだろうと思ってレインパンツを履かなかった。


5時過ぎ、南沢岳あたりでご来光。既にびしょ濡れだったので、太陽の光のあたたかさを全身に浴びて、進撃の巨人並みに吼える。


そんなことしても羞恥心を感じないぐらい人がいない。

船窪小屋まで1組の登山者としかすれ違わなかった。

不動岳から船窪岳まではヒリヒリする道だった。樹林帯をやたらアップダウンさせられる。見晴らしのいい場所は少ない。濡れるのが嫌で草木を避けて歩こうとすると道を踏み外しそうになるほど道が狭い。開けた場所にでたと思ったら、ザレてる急斜面だったり、ナイフリッジのような道…


体力より精神が削られる。今まで歩いてきた道が気持ちよかった分、うんざりする気持ちになるが、ヒリヒリするようなスリルが楽しくもなってくる。整備されて歩きやすい道だけでなく、たまにはこういうワイルドな道を歩くのも悪くない。

なんとなく"Walk on the wild side"のメロディーを口遊みながら歩く。「ワイルドサイドを歩け」って邦訳タイトルから、マッチョな曲なのかと思っていたけど、歌詞をちゃんと読むと全然違ったことを思い出す。

僕は歌詞とは関係なく"Walk on the wild side"という言葉をなんとなく「未知の領域に一歩踏み出すこと」だと解釈している。


今回の山行も計画では5泊6日、自分にとっては未知の領域。手がベトベトに汚れたら今まではウェットティッシュとかで拭きたくなっていたけど、濡れた草を触りながら歩いたらいい。びしょ濡れになる藪漕ぎも洗車されてるみたいで気持ちいいと感じるようになる。山に入って5日目、自分の感覚、自然との向き合い方が変わってきたと感じる。

話し相手がいないと、どうでもいいことばかり考えてしまう。


船窪岳あたりで水がいつもより減っていることに気付く。暑かったし、想像以上にアップダウンが激しい上に、ヒヤヒヤする道が多くて喉が渇く渇く。


9時過ぎぐらいに船窪小屋に到着。水はもったけど水分を補給、濡れたモノも乾かすことにする。

コーラを飲みながら針ノ木方面を見るとガスり始めている。電波が入ったので天気予報を見る。昼前から天候が崩れそうだ…進むか、下山するか悩む。


下山後の楽しみにしていた「民芸レストラン盛よし」の営業日を調べる。今日下山すれば営業しているが、明日下山すると定休日。

どんどんガスが濃くなってきている。歩いても楽しくなさそうなので、下山して七倉山荘で温泉に入って盛よしに行くことにする。

それにiPhoneの画面がチカチカしている。

小屋番のおじさんに下山することにしたと告げて歩きはじめる。どんどんガスが濃くなり視界が悪くなってきたので、下山することにしてよかったと思う。


船窪小屋から七倉山荘の道はこれまた木の根っこが剥き出しでよく滑る道だった。


七倉山荘に着いたとき、久しぶりに風呂に入れることに歓喜する。身体を念入りに洗って、露天風呂に足を入れると温度が高く、日焼けした身体がヒリヒリして全然入れない。ずっと食べたかったアイスが虫歯のせいで食べられないのと同じくらい悲しい出来事だった。

寝転び台で寝ていると、後から入ってきたおじさんが水を足してじゃぶじゃぶかき混ぜはじめる。浸かれる温度になったと教えてくれた。しかし、そのタイミングでアブに襲撃される。おじさんは風呂の中でサメにでも襲われているのかと思うほどバシャバシャ暴れて抵抗していたが、最後は「た、助けて〜」と言って露天風呂から出ていった。

たぶん、誰かの本気の「助けて〜」という叫び声を聞くのははじめてだと思う。

おじさんがいなくなると、アブも静かになったので、のんびり温泉につかる。

風呂から上がって裏銀座バスで信濃大町に16時前に着く。夕飯にはまだ早かったので、去年、長い身の上話を聞かせてくれた「カフェテラス マロン」に寄り道する。

驚いたことに夏休みの子どもたちの溜まり場になっている。アイスコーヒーを飲んでいる最中に死んでいたiPhoneが奇跡的に復活するも、写真を一枚撮ったらすぐに画面が暗くなる。


会計時に今年も元気そうでよかったと伝えると「実は元気じゃないのよ〜!」と身の上話がはじまった。乗りたかった電車に乗れなかった。

無事盛よしに辿り着く。復活したばかりだからか並んでいた。盛よしのために下山したようなものだから僕も並ぶことにする。

盛よしの大盛りごはんは健在。お腹が満たされる。復活してくれて本当にうれしいと店主に伝える。

大雨で電車が動くか微妙だったので夜行バスで帰る。

山行編(完)

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