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南アルプス冒険記「小渋川ルート編」 2025-09-11
「南アルプスに籠りたい」
そんな欲望を叶えた今年の夏休み。
どうも、山﨑です。
南アルプスといえば自然の宝庫。
大自然が色濃く残るあの山域で、長期間1人で過ごしてみたかった。
そして、なんとなくだけど「赤石岳に登ってみたい」なんて欲求もあって。
八ヶ岳で言うところの赤岳みたいなイメージで、標高も高くて強そう=登ってみたい。と言う安直な欲求だ。
そして”赤石”といえば生き物好きが連想してしまうものが、アカイシサンショウウオ。
さぁ、
10日分の食料をザックに詰めて、山と生き物を求めた僕の冒険が始まった。
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◼︎ルート
ざっくりこんな感じ。

どこから山に入るかギリギリまで悩んだ。
赤石岳を目指すのなら椹島からのルートが一般的ではあるが、バスを利用するには少し複雑な規制がある。
バスを使わずに歩いちゃおうとも思ったけど、なんだか芸がない。
釣りをしながら赤石沢から登り詰めるのも面白そうだけど、途中からちゃんとした沢登りになってしまうのでソロでは厳しい。
地図を見ながら悩んでいると、一本の破線が目に入る。
「小渋川のクラシックルート」
長野県大鹿村から小渋川に沿って赤石岳に登るクラシックルート。
W.ウェストンなどの登山家たちが赤石岳を目指したルートでもあって、昔は林業や登山利用の道として存在していたそうだが、30年ほど前に廃道状態に。
現在は公式の登山道としては整備も案内もされておらず、地図上では破線ルートとして表記されることもあるがYAMAPなどからは消されてる。
実際に橋や道は崩落し、踏み跡もほとんど残っていなかった。
渡渉も20箇所以上、自身のルートファインディングがキモとなり、自分を試すには打ってつけのルートである。
道も無く水難事故も発生していたりと危険と言われれば危険。
年に数組しか歩かないマニアックなルートみたいだが、南アが大好きな僕のOMMのバディである彼はもちろん歩いていた。
「とりあえず流されんなよ」とだけ言われ背中を押され出発に至る。
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◼︎8月18日
出発当日。
今僕は歯医者にいる。
最近矯正を始めたのだが、予約を入れていることをすっかり忘れていた。
矯正器具をいつもより強く絞められ少し気合も入ったところで、バスタ新宿へ。
それにしても荷物が重い。
なんせ10日分の食料とカメラ機材が3キロちょっと。
合わせて東京のむせ返る暑さで死にそうだ。

せっせとバスに乗り込んで向かった先は飯田駅。
花火大会とドン被りで街が賑わってる中、出発地点の伊那大島駅に電車で向かう。
18時着。
真っ暗。そしてバスがない。
ご当地のゴボトン丼を食べながら心を落ち着かせ考えた結果、歩こうと決心。

約4時間ちょっと、ひたすら真っ暗なロード歩き。
まさかの標高0地点からのスタートとなった。
(0地点と言っても、標高は519m)


真っ暗闇の中にある街灯はたくさんの昆虫で賑わっている。
ヘッドライトにもたくさんの昆虫が集まってきて、まるで僕のことを歓迎してくれているようだ。


トンネルの中に迷い込んでしまった昆虫たちを拾い上げ、心で会話をしながら一緒にトンネルを抜ける。

そんなことをしてればあっという間に大鹿村だ(標高750m)。
あっという間と言っても既に0時近い。
そして真っ暗闇でよく見えないが、川の音がヤバイ。
明日が心配だが、とりあえず疲れたので道の駅で就寝。


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◼︎8月19日
人の声で目覚める。
日の出前(人が動き出す前)に出発しようと思ってたけど、いつも通り無理だった。
涼しく心地よい風&満点の星空が気持ち良すぎて、死んだように寝てた。
せっせと準備を済ませて地図を見ると、ここから登山口までも3時間ほど。
「ふぅ〜」
再び心を落ち着かせてザックを背負い直し、出発だ。
ロードをひたすら歩き、ようやく林道らしき道に到着すると工事のおっちゃんたちに「そっちはかなり熊が出るべあ」って言われた。
方言なのかツッコミ待ちなのか。どちらにせよ気が引き締まる。
熊スプレーの位置を改めて確認&イメトレして、奥地へ進む。
林道の時点でかなり崩落箇所があって迂回をしなくてはならない。
そしてこの時点で熊の痕跡が結構ある。


こんな感じ。
そして到着したこのトンネル。

冒険の始まりの合図と同時に、思わず「おお…」と声が漏れる。
異様な迫力と禍々しさ。
そして足を踏み入れた瞬間、「うわあ!」と次は腹から声が出る。
ひんやりした泥沼の中に足が沈んでいくのだ。

スターウォーズ エピソード4でルークやハンソロが閉じ込められたデススターのゴミ圧縮機を思い出す。

足元に何か居そうな不気味な感じ…ね。
トンネルを抜けた先も崩落してて、獣道に頼る箇所も多々。
ザレ場ガレ場で、足を滑らせたらそのまま滑落する場所もあるので集中してルートを見定める。

沢沿いに降りて、橋を越えてようやく辿り着いたこの景色。


ここで標高は約1,000m。
目の前に聳え立つ圧倒的な赤石岳。
それを阻む小渋川。
クジャクチョウやジャノメチョウの群れが歓迎してくれた。

もちろん人も居なければルートもない。
そこにあるのは大自然。
興奮と緊張感に押し潰されそうになりながら、とりあえず大声で雄叫びをあげながら記念すべき1回目の渡渉をした。

渡渉も5回目くらいまでは良かった。
水位と天気は1週間以上前から下記サイトで確認はしていた。
僕が行った時は-2.9とかだったかな?
しっかり確認しておいてよかった〜なんて思っていたのも束の間。
「これ渡れなくない…?」なんて水位と激流が僕を難み始めた。

急に腰上くらいの渡渉、足を持ってかれるくらいの激流。
ルートを見定める中でOMBRAZには何度も助けられた。
レンズに偏光が入っているので、しっかり川底を視認できるのだ。
光を遮るものが無いビカビカの水面の乱反射も防いでくれて、あると無いじゃ雲泥の差だ。
川底が見えない深い場所は、トレッキングポールで探りながら慎重に渡る。
その中でも数回足を持ってかれそうになる瞬間もあってめちゃくちゃ怖くなった。本気で足が震える。
「僕の身長だと厳しいのかな」と思いつつも、それ以上に「ふざけんなよ」「なんでだよ」なんて悔しさも滲み出てくる。
このタイミングくらいから、”僕の身長でも無理なく渡れるルート” なんてゲーム感覚、反ば意地も含めて大自然への体当たりが始まった。


クリアしていくごとに近づいてくる赤石岳と稜線。
クリアしていくごとに渡渉のスキルを身体で覚えてレベルアップしていく感覚。
ステージのレベルもどんどん上がっていく。
そして18回目の渡渉ステージ。
コイツがやばかった。
一向に攻略法が見つからない。
唯一、可能性があったのが向こう岸へのジャンプ。
普段だったら絶対にジャンプできる距離感だけど、状況が違いすぎる。
岩と岩の間は激流で川底が見えない。
荷物はカメラ機材を含めると18キロほど。
そして流されそうになったトラウマ。
「行ける!」 ↔︎ 「無理!」を永遠と繰り返して20分くらい。
ジャンプするのはやめた。
本当に流されてしまうかもしれないという圧倒的恐怖感には勝てなくて、再度沢の調査を再開。
地図を見ると渡渉も残り数回。しかも沢筋も狭そうだから、おそらくコイツがラスボス。
「ここで僕の旅は終わっちゃうのか?」なんて少しテンションを落としながらも、悔しくてルートを細かく探すこと数十分。
新たな可能性を発見。
激流の横にある岩がしっかりしていて、足場も使えそう。
この岩をカニ歩きで横にクライミングできれば流れの弱い箇所に辿り着けそう。
ただそり返ってて怖いし落ちたら流されるけど、もうここしかない。
そう判断してチャレンジしてみることに。
カメラバックや外付けしているものは全てバックパックの中にパッキングして、いざ挑戦…。

この岩場を、そして激流を越えた記憶があまり無い。
多分ものすごく集中していたんだと思う。
気づいたときには向こう岸に渡って、バックパックを放り投げてめっちゃ叫んでた。
何回叫んだか分からない。頭がクラクラするくらい叫んだ。

そして気づいたら空が茜色に染まり出している。
予定よりかなり時間をオーバーしてしまったので、今日中に残りの渡渉を終わらせてビバーク場所を探す。
魚を釣って食べたかったけど、魚の気配無し。
上流付近の沢筋も天気で変わりそうだし、この激流には流石に生息できないか。

とりあえずビバークスポットを見つけて焚き火で暖をとる。
緊張が解けた途端にお腹が鳴りだす。
ご飯をかき込んで味噌汁で流し込み、空を見上げると満天の星空。
達成感も相まって幸せ度数200%で寝落ちした。


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◼︎8月20日
予定より2時間オーバーで起床。
今回の旅でひとつ決めていたことは「目覚ましアラームを掛けないこと」
約10日間、自然の光と自身の感覚で山の中で目覚めるって最高に幸せじゃない?
それにしても昨晩は最高の夜だった。
星空の元、川の音を聞きながら焚き火をしてウイスキーを飲んで。
野生動物の気配を感じつつも、うとうとと微睡む。
ただ寝ただけなのに、なんだか余韻に浸ってしまっている朝。
人間なんて僕以外誰もいない大自然の中、川にドボンして身体を覚醒させてパッキングも済ませる。
さあ、出発だ!と意気込んだ矢先、事件発生。
スマホの充電がほぼ無い。
今回ソーラーパネルを初実装したのだが、なんてアホなんだろうか。
ソーラーパネルは電力を蓄電すると思い込んでいて、コードも何も繋がずにただ日差しを浴びさせていただけだった。
こんだけ陽を浴びればめちゃくちゃ溜まっているだろう!なんて充電ケーブルを差し込んで眠りについたのだが、そりゃ充電されてるわけがない。

「そりゃそうだよな」なんて納得しつつ、慌てて機内モード&低電力モードに切り替えて野営場を後にする。
歩き出すとすぐに広河原小屋を発見。
どうやら南アルプスの中でも相当古くからある避難小屋らしく、なんだか趣というかオーラを感じる。
大自然の中のリアルポツンと一軒家(標高1,460m)。


あっちの広河原よりもこっちの広河原の方がなんだが好きだな。
中も見たけど思った以上に綺麗だった。けど1人で泊まる勇気は無い。
広河原小屋を背に山の中へグングン入って行く。
ここは完全に樹林帯で、もう赤石岳やあの稜線は見えない。
たまにピンクテープがあるけど、あまり信用はできないし基本的に道は無い。
ここ登らせんのかよ、なんて思わずため息が出てしまう急登。あとはひたすらに獣道。
そんなルートをただひたすら登っていく。


疲れて朦朧としていると無意識に歩きやすい道(獣道)に迷い込んでいて、熊の足跡と糞に驚きハッと我にかえる。
人もいなければ道もない。
大自然を想いのまま歩くこの感覚は まさしく”生きてる”って感じで、すごく楽しい。



どんどん川の音が遠ざかり、木の背も低くなってくる。

植生の変化と冷たい空気で標高を実感する。
ハイマツの藪漕ぎに幸せと達成感を感じつつ、ついに稜線に飛び出した。



振り返れば、あれほど苦戦した小渋川が遥か下に小さく見える。

見渡す限りの山々。

赤石岳がすぐ近くに聳え立つ。
達成感に満ち溢れて稜線上で倒れ込んだ。
誰もいないアルプスの稜線。
このルートからじゃないと見ることのできない山々の新鮮な表情と雄大さを独り占め。

たまらなく幸せだ。
気づいたら30分くらい浸っていた。
森林限界を超えた先から大聖寺平に向かう道中もザレ場ガレ場が続くので、気が抜けない。
集中力を切らさずにルーファイしていく。


そして大聖寺平に着く頃には、赤石岳から荒川三山に気が変わっていた。
だってさっきの稜線から見た荒川三山がかっこよかったんだもん。
あとお花畑もありそうで、昆虫の観察もできそう。
何よりビールが飲みたい。
「ビールが飲める」という思考回路に陥った途端に身体が軽くなる。なんて恐ろしい飲み物だ。
気がつけば足早に荒川小屋に向かうのであった。

続く…。
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