OMM UK 2025 / SHAP ABBEY, LAKE DISTRICT 2026-05-01

「OMMは僕の人生を変えてくれた」

OMM UK SHAP ABBEY 2025のサンデーディナーで、UKチームと酔っ払いながら話したことを、このブログを書き始めようとしたときふと思い出した。

2020年の野沢温泉のOMM JAPANに参加したことが、僕の人生を変えたと言っても過言ではない。地図を読めるようになって山で自由にもっと遊べるようになって、自然がもっと好きになり、いつの間にかMoonlightgearで働いていた。

本場イギリスのOMMに参加することが決まったとき、嬉しすぎて興奮もしたけれど、正直かなり不安だった。僕もバディの魚岸も英語はノリでしか話せない。気候やレースのレベルも分からない。装備が足りるかも分からない。そもそもレース会場にちゃんと辿り着けるのか?

だけど、はじめてOMM JAPANに参加した時も同じような気持ちだったなと思う。

人生で何かに悩んだ時は、できるだけ不安の多い方を選ぶことにしている。

悩んでいるということは、その不安を上回る何かを感じているということだから。その選択のひとつひとつが自分がまだ見たことない新しい世界に繋がっていると思う。

OMM UK SHAP ABBEY 2025に参加してから、しばらく時間が経ってしまった。

レースの映像はすでにYouTubeで公開されているので、見ていない方はまずそちらを。旅の記録や雰囲気はそこで伝えられていると思う。

📹 YouTube「OMM UK 参加記録」
前夜祭編 → https://youtu.be/Wnfhy-eV-tE
レース編 → https://youtu.be/wShqYmi3bOo

このブログには、映像では伝えきれなかったことを書こうと思っている。頭の中で考えていたこと、その場で感じていたこと。そういう、カメラには映らないことをこのブログで紹介できたらと思う。

・ ・ ・

前夜祭へ

僕らが参加したOMM UKは56回目、会場は文化遺産として世界遺産にも登録されている湖水地方。10月のイギリスは曇や雨の日が多いと覚悟していたけど、イベントセンターのSHAP ABBEYに到着した時は、雨は降っておらずむしろいい天気。

Googleマップでイベントセンターを検索した時に、何もない牧草地が目的に指定されて本当にここであっているのか?と不安になりながら向かったのだけど、何もない牧草地に突然巨大なテントが現れた。

無事にOMM UKチームと合流して何か手伝うことはないかと聞いたが、せっかくいい天気だから近くをゆっくり散歩してきた方がいいと言ってくれたので、今回の大会のシンボルSHAP ABBEYを見に行く。

SHAP ABBEYは800年以上前に建てられた修道院の廃墟だ。日本でいえば鎌倉幕府が開かれたころのことで、その石積みの遺構が今もローザー川のほとりに静かに残っている。

日本でもこんな趣のある場所がイベントセンターでできると楽しそうだね!と魚岸とはしゃぎながら遺跡の中を歩き回った。

日が暮れてイベントセンターに参加者が集まる頃には、雨と風が強くなりこれがOMMウェザーか!テンションが上がる。

会場に貼り出されている天気予報を確認した。雨は少なそう。ただ、風が強く、体感温度は氷点下になりそうだという。日本を出る前に想定していたより、ずっと寒い。

持ってきた装備で本当に眠れるのか、あと一枚インサレーションを足すべきだったか、ギリギリまで頭を悩ませた。さすがにちょっと不安になってくる。

だけど、OMMの前夜祭に参加すると、いつの間にか不思議と楽しくなってきて勇気が湧いてくる。

あたたかいご飯があって、うまいビールがあって、OMMに関わるすべての人たちの熱気があった。英語がよく聞き取れなくても、その場の温度みたいなものは確かに伝わってくる。気がつけば、不安だったはずの気持ちがいつの間にかワクワクに変わっていた。

不安がなくなるわけではない。
不安も含めて、それを自分たちがどう乗り越えて行くかを楽しもう、という気持ちになってくる。
OMMの前夜祭には、そんな不思議な力がある気がする。

日本でもレースの直前はいつもそわそわしていたけど、前夜祭の後にはテンションが上がってワクワクに変わっていたことを思い出した。

OMM JAPANに参加する方も、ぜひ前夜祭から参加してみてほしい。

・ ・ ・

コンパスは北を指す、どこでも

そしてレース当日。昨晩の雨が嘘のような青空。会場に向かう道中はまだ小雨が降っていたけど、その雨に太陽の光が差し込み大きな虹が空にかかっていた。なんだか祝福されているような気持ちになる。

会場で受付を済ませて、他の参加者と一緒にスタート地点に向かう。スタートに向かう道中はずっとワクワク、ドキドキしていたけど、SHAP ABBEYから歩いて10分ぐらいの場所に、日本では何度も見たOMMのフラッグとスタートゲートを見つけて、なんだかホッとした記憶がある。

スタートして周りの出走者と一緒に勢いよく走りはじめた。

湖水地方の広大な地形は日本では見たことがない風景で、天気が良く遠くの地形まで見渡すことができたので最高に気持ちがよかった。

湖水地方のなだらかなU字谷、広大な草原、深い湖——日本の山とは全然違う景色だと思ったら、これは火山や隆起ではなく、何万年もかけて氷河が削り出した地形らしい。

僕らが参加したコースはCOURSE B。体感だと日本のOMMのStraight AとBの間ぐらい。見晴らしはいいけど、日本の山のように尾根や谷、植生の特徴があまりないので、地図に慣れるまでに少し時間はかかったけど、順調にCPを獲得していく。

走りながら、ずっと考えていたことがある。

英語があまりうまく話せない2人でも、OMMは楽しめた。それはたぶん、地図とコンパスというシンプルな道具で遊ぶ競技だからだと思う。

コンパスの針は世界中どこでも北を指す。

紙の地図に描かれた等高線と記号は、知識があれば誰でも読める。道具は同じで、ゲームのルールも同じ。国籍も言語も関係ない。

狙ったチェックポイントを探し当てたとき、湖水地方の地形と「繋がった」ような感覚があった。日本でもOMMをやりながら似たような感覚を覚えたことはあったけれど、言葉があまり通じない土地だからこそ、より純粋に、より強くそれを感じた気がした。

山に分け入り、地形と対話して、目的地を探し当てる。

その遊びの本質は、時代も言語も文化も超えるものなんだと、あらためて思った。

レース前にも色んな人から忠告されていたけれど、牧草地が雨をたっぷり吸い込んで、まるで濡れたスポンジの上をずっと走っているようで想像以上に足が疲れる。

途中まで順調だった魚岸の足が攣りはじめ、徐々にスピードが落ちていき、すべてのCPをまわると制限時間内にゴールは絶望的な状況になってくる。太陽が沈み風がどんどん強くなっていく中、足が攣って動けなくなった魚岸と、それをただ見守ることしかできない僕の体温がどんどん奪われていくので、初日の完走は諦めることにした。

レース中の僕と魚岸のやり取りはYouTubeを見てもらう方が楽しいと思うので、まだ見たことがない人はぜひ見てみてください。「レース中に喧嘩しているシーンはリアルですか?演技ですか?」と良く聞かれるけど、120%リアルです笑

・ ・ ・

ギアの話

爆風で体感温度が氷点下を下回るような環境で、OMMのCoreとKamleicaシリーズにどれほど救われたことか。

OMMのギアは、既存の製品では満足できなかったアスリートたちが、自分たちのレースのために開発したものだ。雨と強風が当たり前のイギリスの10月に、50年以上レースを開催してきた歴史が、そのままギアの設計思想に刻まれている。

今回のレースで、その言葉の意味を身体で理解することができた。

また、今回のレースでは、レース後もイギリスの山で2人でテント泊を楽しみたかったので耐候性と居住性の高いDurstonX-mid2を選んだ。虫はいないシーズンだったのでインナーは使わずに広々と2人で過ごすことができて快適だった。

UKの出走者はどんなテントで寝ているのだろうと思って、夜のテント村をぶらぶら散歩していたらDurstonのテントを何張も見た。10月の悪天候のイギリスでも安心の耐候性、出入り口が2箇所あることの快適さ、OMMに参加するならやっぱりDurstonですよね。となんだか勝手に仲間意識のようなものを感じた。

時代やギア、そして、場所は変われど、背中に背負えるものと自分たちの知恵だけを頼りに、二人一組で山に入り、山の中で迷いながら思いっきり遊ぶことを楽しむOMMのスピリット。

それはきっと、人間と山の地形との会話、そして、山との繋がりを感じることができる普遍的なものだと思う。言葉があまり通じなくても、その楽しさを他の参加者とも分かち合うことができたことがとても嬉しかった。

・ ・ ・

サンデーディナー

OMMには、レースが終わった後にサンデーディナーという伝統的な食事会がある。

OMMの運営チームだけじゃなく、長年OMMを支えてきたボランティアのスタッフたちも集まる。レースを終えた疲労感と達成感の中で、みんなで食卓を囲む時間だ。この文化はOMM JAPANにも受け継がれていて、僕も大好きな時間なのでとても楽しみだった。

英語がよく分からない僕でも、その場の空気は十分に伝わった。笑いがあって、拍手があって、ところどころで涙があった。

OMM UKでは毎年恒例の詩人が詩を朗読する時間もある。毎年この場に立つ人で、サンデーディナーのもう一つの風物詩になっているようだ。言葉の意味はほとんど分からなかったけれど、その声のトーンと、聴いている人たちの顔を見ているだけで、何か大切なことが語られているのは分かった。

OMMというレースは、走っている2日間だけじゃないんだと思った。このサンデーディナーまで含めて、OMMだ。

その場でスピーチをする機会をもらった。英語は上手じゃないので、ChatGPTに手伝ってもらった文章を読んだ。

そこで話したのは、2020年の野沢のことだ。OMMが僕の人生を変えた、と。

あのとき初めてOMMに参加したことで自然がもっと好きになり、山で遊ぶようになって、今の仕事に辿り着いた。だから本場イギリスのOMMに参加できたことは本当に特別だ、と。

急な参加のお願いにも関わらず受け入れてくれたOMM UKチームのみんなへ、本当にありがとう、と。

下手くそな英語だったので、うまく伝わったかどうかは分からない。でも、その後にみんなと飲んだお酒はとびきりうまかった。

・ ・ ・

2020年のOMM JAPANに参加するかどうか悩んでいた。あの時、参加しないという選択をしていたら、もしかしたらこんなに素晴らしい体験をすることはなかったのかもしれない。

不安だけど自分がワクワクする方を選んできたら、ずっと憧れていたイギリスまで辿り着いた。その不安がいつの間にかワクワクに変わっていたのは、いつもその選択を一緒に楽しんでくれる仲間がいたからだと思う。

OMMは紙の地図とコンパスだけで、自分の行く先を決める。本当に正しい道なのかどうか正解はわからない。だけど、バディと一緒だからその選択を楽しみながら進むことができる。本当に素晴らしい「遊び」だと思う。

そんな最高の遊びを一緒に楽しんでくれたバディの魚岸、快くイギリスに送り出してくれたたくさんの人々、そして僕たちをあたたかく迎えてくれたイギリスのOMMチームとボランティアの人々には本当に感謝!

今回は完走できなくて悔しかったので、いつかまたOMM UKにチャレンジしたい!

まだやったことのないことに不安を感じているなら、それはたぶん、悪い兆候じゃないはず。

このブログを読んだ人といつか日本のどこかで開催されるOMM JAPANで、あるいは、イギリスのどこかで開催されるOMM UKでも会える日が来るかもしれない。それがとても楽しみです。