【北アルプス縦走 ルートα〜第三話〜】 2024-07-11

DAY3
五色ヶ原→スゴ乗越→薬師岳→太郎平→黒部五郎

0:30頃、目覚めてから何度ももう一度寝ようかなと思ったけど、Kの方から殺気のようなものを感じたので、ヘッドランプをつける。

1:10分ごろ出発。今日も満点の星空だけど眠い。


しばらく歩いていると、目の前に底無しの暗闇が広がっていた。全てを飲み込むような深い闇に恐怖を感じる。

立ち止まってヘッドランプを消してみよう!とKに提案してみると付き合ってくれた。

1分ほど、真っ暗闇とにらめっこしてみる。

何も起こらなかった。

暗闇の中歩いていると、ときどき反対側の山の闇にわずかに動く小さな光が見える。こんな時間から行動している人が他にもいるんだと安心する。

鳶山から富山方面を見ると、街明かりと暗闇の中に光るテント、その上に広がる星空。


何年何十年何百年前の星の光と地上の光を同時に眺めているのだと思うと不思議な気分になる。

何光年と旅してきた星明かりに比べると、フレッシュな街明かりが眩しい。

しばらく歩いていると反対側の山にいた光の主とすれ違う。あなたでしたか!とハイタッチでもしようかと思ったけど、相当追い込んでおられたのでやめておく。

5時前にスゴ乗越小屋でKがトイレに行く。なかなか出てこないので身体が冷える。5時過ぎ頃に綺麗な朝焼けを見たときに、長いナイトハイクが終わったのだとホッとする。


6時過ぎ頃、雷鳥の群れに遭遇する。

しばらく雷鳥を愛でていると、全然前に進めないですねとKと後ろから来た人が話し始める。

雷鳥は全てに優先する

そう言っても納得してもらえなかったようなので歩くことにする。


7時頃、北薬師岳から薬師岳への稜線を晴れ渡った空の下気持ちよく歩けたときに早起きしてよかったなと思う。


9時頃、薬師峠キャンプ場でKがまたトイレに行く。スタートを早めたことで食べることを諦めていた太郎平小屋のラーメンが食べられるかもしれないと思い、ゆっくりしてきていいよと送り出す。

Kがトイレから帰ってきて歩きはじめてしばらくしてから、「たしか、10時から太郎平小屋でラーメン食べられるはずだから、ラーメン食べて行こうよ」と提案すると、

昼前から雨予報だし、急に予定を変更するのはやめてもらいたい、と言ってきたので、

こっちはウ○コでトータル何分待たされたと思ってるんだよ、それに比べたらラーメン食べる時間なんてあっという間だろ!

と言うと、ゆっくりしていいって言ったから!とか、歩くだけじゃつまらない!おいしいもの食べたい!とか、言い合いになる。


太郎平小屋が見えてきたときに、ラーメンを食べようが食べまいが、どうせ雨には降られるだろうし、食べて行こうとKがしぶしぶ言う。

10時前に小屋に着く。ラーメンは何時から食べられるか?と聞くと、11時からだと言われる。

Kが勝ち誇ったように、ラーメンのために1時間以上待つのは嫌だから歩こうと言う。僕もそう思うけど、ラーメンを美味しく食べるために、行動食を食べずに歩いてきたからお腹減った。おやつ食べよと言うと、Kに睨まれる。

後日、今回の山行の反省会をしたときに、Kはトイレをコントロールできないと反省していた。

それを聞いて、生理現象とラーメンを争いの火種にしたことはフェアではなかったかなと思ったけれど、ラーメンを食べたいという食欲もまたマズローの欲求5段階説では排泄欲と同じ生理的欲求に分類されてるし、まあいいかと思う。

11時頃から空が曇り始める。昼間のギラギラした太陽は暴君のように体力を奪うので歩くのが嫌になる。曇ってるぐらいがちょうどいい。


ウ○コとラーメンで言い争っていた時間を取り戻したかったのか、Kがガシガシ歩いていたが、12時過ぎ頃、すごく眠たいと言い出す。今日は10時間以上歩いてるし、少し寝ていいよと言う。

Kが寝ている間、雲の濃淡で変わる景色に見惚れていた。真っ白な世界に包まれたと思ったら、突然ふわっと明るくなったり、ずっと見ていられる。


13時半頃、黒部五郎岳の山頂付近で、またもや、雷鳥ファミリーに出くわす。砂遊びをしていた。


雷鳥は全てに優先する

カールに下っている途中でガスが晴れてカールの全貌が見えた。今回歩いた中で一番好きな場所だと思う。


カールに下りると川が流れていた。飲んでみると冷たくて生き返る。歩く元気が湧いてくる。


小屋に向かって歩いてると、幼稚園のお散歩のような雷鳥の群れに遭遇する。近寄るとわらわらと草むらに逃げていく。親鳥が後ろから全員が隠れるまで見守る姿が尊い。

雷鳥は全てに優先する


今日は雷鳥を優先し過ぎたので、黒部五郎小屋に着いたのは15時前だった。歩いている最中に雨に降られることはなかったけど、テントを設営をしている最中に雨が降ってきた。


すぐに雨が止んだので、小屋前で冷えたビールを2本飲む。がんばって歩いた自分たちへのご褒美。


早めの夕食を済ませると凄まじい睡魔に襲われる。小屋の人に夕焼けが綺麗だからがんばって起きてた方がいいと言われたので、がんばって起きることにする。

18時半頃、空が夕陽に染まりはじめる。何度も意識が飛びかけていたけれど、楽園のような美しさに目が覚める。


ここにはまた遊びに来たいと思う。

テン場に戻って、Kと明日はのんびり4時出発でと言って眠りにつく。



第四話へ続く)

Written by : Yoshihiro Nakatsuchi