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MLGクルー山行記 Vol.1 ー脊梁ファストパッキング 2026-04-20
思考と道具を研ぎ澄ます3日間
「九州に良い山、ある?」
そう聞かれたら、僕は迷わず、そして自信を持って即答する場所がある。
ここ数ヶ月、毎週のように福岡の里山を駆けまわっていた僕が、次なる遊びの舞台に選んだのは、九州の屋根——九州脊梁(せきりょう)山地だ。

熊本と宮崎にまたがる標高1700m級の稜線。
そこにはブナやミズナラの原生林が広がり、かつて平家の落人が隠棲したという「隠れ里」の伝承が息づく。
何度も訪れた場所だが、スタイルを変えて挑むたび、この山域は新しい顔を見せてくれるから大好きだ!
旅の始まり:熊本前夜祭
今回のメンバーは吉谷、山崎、松本の3名。
山行前日、東京から前乗りした山崎と熊本市内で合流。
馬刺しに焼酎、そして〆のラーメン。
熊本の街の豊かさを胃袋で感じながら、翌日からの山行に備える。
来てみたらわかるのですが、やっぱり「よかとこばい、熊本!」

翌朝、路面電車で熊本駅へ向かい、深夜バスで到着した吉谷と合流。
くまモンに見守られながら高千穂行きのバスに揺られること3時間。
スタート地点の山都町・馬見原(まみはら)に降り立った。

ここで「絶品ドーナツ」という想定外の誘惑に負け、出発が2時間遅れるのも旅の醍醐味かな。
1日目:静寂の懐へ。黒峰から小川岳

歩き出すとすぐに、脊梁らしい急登とアップダウンの連続が始まる。
「きつ楽しい!」
そう思えたら、もう脊梁の虜だ。
黒峰の山頂からは、これから歩く果てしない山々がパノラマで広がる。

この日のビバーク地は小川岳の手前。

僕は愛用のタープ&ビビィスタイル。
自然との境界線が少ないビビィはもはや里山遊びには欠かせない!
樹林帯に溶け込む赤いGatewood Capeの佇まいに見惚れながら、人工音の一切ない静寂の中で深い眠りについた。
2日目:15時間行動の核心部。寒さと、軽さと、コーヒーと。
小川岳から白鳥山。
午前3時、一桁台の冷え込みの中でパッキングを開始。

ここで事件発生。
手袋を忘れたことに気づく。
だが、絶望することはなく、エマージェンシーキットを入れていたスタッフサックを手に装着。
これが意外にも暖かく、外気をシャットアウトしてくれる。
失敗から生まれる発送こそが面白い。

五ヶ瀬ハイランドスキー場を経て、三方山へのなだらかな尾根。
ファストパッキングは、ただ急ぐための手法ではない。
浮いた時間でコーヒーを淹れ、広大な景色に身を浸す。
「自分との境界線がなくなるほど、強烈に自然に溶け込む」
そのための身軽さなのかな…。
そう考えているうちに、お気に入りのMONK'S STOVEで水が沸く。
九州脊梁主峰国見岳から向霧立越(むこうきったちごし)へ。
山頂から少し下ったところに、水場(川辺川源流)があるのでここはぜひ寄ってほしい!
おいしい水を味わえる。
信じたくないけど、遥か遠くにうっすらとそびえたつ白鳥山。
15時間、33kmというハードな行程を支えてくれたのは、間違いなく mini joeyの軽さだった!
疲労はある。
けれど、足取りは軽い。
道具が身体の一部になる感覚が、さらなる冒険への活力をくれる。
陽が沈みかけたところで白鳥に到着。
疲れたけれど、それ以上に陽が高いうちにこの場所に辿り着けなかったことが心残り。
なぜなら、ここ白鳥のミイケは脊梁屈指のお気に入りスポット!
日中でないと、その全貌が捉えられないので気になる方はぜひ陽が差し込むタイミングで訪れてみてほしい。
さてと、もう一つ問題が。
「昨日、思った以上に寒かったから標高を落としたいね」
という話をしていたのですがここは標高1500mほど。笑
まあ、そんなこともあるだろうと、MONK FLAT TARP (DCF ver)をエスケープビビィ代わりにぐるぐる巻きつけて暖かさブースト。
さらに、ドローイングスタッフサックを両足にセットして準備万端!
対策が成功したからなのか、疲れ切っていたからなのかわからないが、昨日よりもぐっすりと眠れた。
写真がないのは、疲れすぎてカメラを出す気になれなかったから。笑
3日目:光と影。脊梁のハイライト


再び午前3時起床。
銚子笠を過ぎたあたりで、空が色づき始める。
3人ともおもむろにカメラを取り出す。
立ち止まってシャッターを切るという行為は、自然の声に耳を傾ける時間そのものだと気づいてからハマっている!
歩くことだけに没頭するのもいいけれど、立ち止まるきっかけを作ってくれるカメラで新しい景色を見ることができるようになったから面白い。
ファストパッキングとカメラって実は相性いいのかも。

最後の江代山直前の激急登。
己への挑戦を突きつけてくるようなこの厳しさこそ、僕が脊梁を愛してやまない理由だ。
最後は湯山温泉郷を目指して一気に駆け下りる。

下山後は、僕の地元・人吉へ。
温泉と美食で心身を解き放つ。
後泊して街を楽しむのが、脊梁旅を完結させる最高のルートだ。

ファストパッキングの面白さ

「なぜ、そんなに小さなザックで山へ行くのか?」
そう聞かれるたび、僕の胸の中にはひとつの答えが浮かぶ。
僕にとってのファストパッキングは、単に速く移動するための手段ではない。
それは、遊びそのものだ。
あえて mini joey というミニマルな道具を選び、パッキングを「引き算」していく過程は、自分の体力、経験、そして知恵を試す試行錯誤の連続だ。
手袋を忘れたらスタッフサックを手にはめ、寒ければタープを体に巻きつける。
そんな失敗や工夫の先にだけ、誰かに用意されたルートではない、自分だけの「ルート」が現れると信じている。
荷物を削ぎ落とし、身体の一部のように馴染むギアを纏う。
すると、身体が軽くなるだけでなく、感覚が驚くほど研ぎ澄まされていく。
脊梁の深い静寂や、風の匂い、土の感触をダイレクトに受け止めることができる。
「より深く、より静かに…」
道具を探求し、装備をミニマライズするのは、自然との境界線を消し、あの圧倒的な原生林の中に自分を「溶け込ませる」ためなのだ。
結び:静かなる一歩を、共に。

過剰な機能に頼らず、ありのままの自分の脚力と判断力で、広大な山域を駆け抜ける。
その「少しの勇気」を与えてくれるのが、今回パッキングしたギアたちだ。

ファストパッキングというスタイルで脊梁を歩くこと。
それは、先人が拓いたルートを辿りながら、今の僕たちが「どう遊ぶか」を自らに問い続ける、終わりなき冒険なのだ。