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【北アルプス縦走 ルートα〜第二話〜】 2024-07-11
DAY2
三俣山荘→鷲羽岳→水晶岳→赤牛岳→読売新道→平ノ渡し船→五色ヶ原
2:15出発
2時出発予定だったけど、僕の寝坊と濡れたテントなどのギアの撤収に時間がかかり、15分遅れスタート。
10時発の平ノ渡し船に乗りたかったので、この15分遅れの罪は重い。
Kがそんな顔で待っていた。
なぜ、こんなに早い時間に歩きはじめたのかというと、昼過ぎから雨が降る予報だったから。雨に降られるより、星空の下を歩く方が楽しそうだから、ナイトハイクを楽しむことにした。
3時ごろ、鷲羽岳の山頂では満点の星空。
4時ごろから空がだんだん明るくなり、水晶岳で来た道を振り返ると槍ヶ岳まで見渡せた。
5時過ぎ、温泉沢ノ頭から赤牛岳に向かって歩いていると、山が赤く染まりはじめる。西の方角を見ると、明日歩く薬師岳が真っ赤に染まっていた。
しばらく日の出を眺めながら、朝食がてら行動食にPOWBARを食べる。
そこから、赤牛岳、読売新道の樹林帯に入るまでは気持ち良かったのでゆっくり味わうように歩く。
読売新道は歩きにくいと聞いてはいたけれど、下りだし出遅れた分は取り戻せるだろうと楽観的に考えていた。
樹林帯に入ると、その考えが甘かったと気付く。大きな段差、木の根っこ、昨夜の雨の影響か滑りやすく、リズムよく歩ける道ではない。太陽が上り、標高も下げていくので、気温はどんどん上がるけど、ペースは上がらない。
10時の渡し船を逃すと、次は12時。午後から天候が崩れる予報の中、2時間のタイムロスは痛い。
焦る気持ちと歩きにくい道に悪戦苦闘していたのでKとの会話はほぼなかったが、なんで読売新道って言うんやろうな、読売新聞がつくったんちゃう?もっと歩きやすい道にしてくれたらよかったのにな、とか文句を垂れながら歩いていたけれど、後で調べてみたところ、
読売新聞が北陸支社創設時に記念事業として5年かけて完成させたらしい。5年もかけてつくってくれたのだから、感謝しなければならない。どんなに歩きにくくても道があるだけでありがたい。
奥黒部ヒュッテの手前らへんで、Kと船には間に合いそうだなと話しているとき、僕が船の時間を勘違いしていたことが発覚する。10時発だと思っていたが、それは平の小屋側の時間で、僕らの乗る針ノ木谷側は10時20分だった。
それなら余裕やんと安心す。
8時半ごろ、奥黒部ヒュッテで水を汲むときに、小屋番の人に念のため時間を確認したところ、10時20分の船には今からここを出ても間に合わない、走ればギリギリ間に合うかもしれないが走れるような道じゃないと言われる。
走るのは嫌だったので、引き続きペースを落とさず歩くことにする。
たしかに高度感のある梯子のアップダウンが多くて走れるような道ではなかったけれど、9時40分ぐらいには平ノ渡場に着いたので少し時間を持て余す。
平の渡し船は10分ぐらいであっという前だった。
平の小屋でコーラを飲みながら濡れて重くなったテントなどを干して乾かす。
赤牛岳から約1400m標高を下げたので暑い。さらに五色ヶ原まで約1000m登り返さなければならないことが億劫で1時間ぐらいダラダラしていたけど、雨に降られるのも嫌なので歩くことにする。
太陽と風のない樹林帯の暑さにうんざりしながら歩く。昨日、三俣山荘で色々食べて行動食や食料が全然減らなかったので荷物もまだまだ重い。
3泊4日の装備でトレッキングポールを使って歩いているKが楽そうに見えてくる。
普段、人より荷物を軽く、楽して歩くことばかり考えているので、自分より身軽で楽そうな人を見かけることがあまりない。
暑さのせいなのか、いつもより重い荷物を背負っているせいなのかよくわからないが、自分より楽そうに歩いているKに理不尽だなと思いつつも無性に腹が立ってきて、
仮にさ、僕は日程に余裕があるし明日は黒部五郎まで行かなくてもいいから、五色ヶ原でのんびり寝たい。だから、明日からひとりで歩いてきてって言ったらどうする?
とKに言うと
しばらく沈黙してから
それは萎えるな、明日が一番長い一日なのに…
と、心が通じ合えたと思ったのに、じゃあねと立ち去られたペットショップの仔犬のような声で言うので、
冗談!冗談!明日も一緒にがんばろう!
と自分自身も鼓舞するように言う。そして、荷物が重いときは、トレッキングポールを絶対に持っていこうと誓う。
14時半ごろ、あまりの暑さに何度も休憩したので予定より遅れてしまったけど、なんとか雨に降られる前に五色ヶ原に到着する。
テン場近くの沢が枯れていた。2023年の北アルプスは雨があまり降らなくて、水不足が深刻だと三俣山荘でも聞いた。歩いているとき、雨に降られないことは嬉しいことだけど、枯れた沢を見ると悲しくなる。
受付を済ませてテントを設営していると雨が降ってくる。各々テントの中で食事することにする。
17時過ぎぐらいに雨が止み、Kがやってきて、明日は11時ぐらいから雨が降る予報だから出発を早めようと提案してくる。
雨が止んで晴れ渡った空に虹がかかった五色ヶ原の美しさに感動して元気になっていたので、いいよと答えると、
じゃあ、1時出発で!
お、おう…
夕焼けを眺めてから、19時前ぐらいには寝るかと各々テントに戻る。
(第三話へ続く)
三俣山荘→鷲羽岳→水晶岳→赤牛岳→読売新道→平ノ渡し船→五色ヶ原
2:15出発
2時出発予定だったけど、僕の寝坊と濡れたテントなどのギアの撤収に時間がかかり、15分遅れスタート。
10時発の平ノ渡し船に乗りたかったので、この15分遅れの罪は重い。
Kがそんな顔で待っていた。
なぜ、こんなに早い時間に歩きはじめたのかというと、昼過ぎから雨が降る予報だったから。雨に降られるより、星空の下を歩く方が楽しそうだから、ナイトハイクを楽しむことにした。
3時ごろ、鷲羽岳の山頂では満点の星空。
4時ごろから空がだんだん明るくなり、水晶岳で来た道を振り返ると槍ヶ岳まで見渡せた。
5時過ぎ、温泉沢ノ頭から赤牛岳に向かって歩いていると、山が赤く染まりはじめる。西の方角を見ると、明日歩く薬師岳が真っ赤に染まっていた。
しばらく日の出を眺めながら、朝食がてら行動食にPOWBARを食べる。
そこから、赤牛岳、読売新道の樹林帯に入るまでは気持ち良かったのでゆっくり味わうように歩く。
読売新道は歩きにくいと聞いてはいたけれど、下りだし出遅れた分は取り戻せるだろうと楽観的に考えていた。
樹林帯に入ると、その考えが甘かったと気付く。大きな段差、木の根っこ、昨夜の雨の影響か滑りやすく、リズムよく歩ける道ではない。太陽が上り、標高も下げていくので、気温はどんどん上がるけど、ペースは上がらない。
10時の渡し船を逃すと、次は12時。午後から天候が崩れる予報の中、2時間のタイムロスは痛い。
焦る気持ちと歩きにくい道に悪戦苦闘していたのでKとの会話はほぼなかったが、なんで読売新道って言うんやろうな、読売新聞がつくったんちゃう?もっと歩きやすい道にしてくれたらよかったのにな、とか文句を垂れながら歩いていたけれど、後で調べてみたところ、
読売新聞が北陸支社創設時に記念事業として5年かけて完成させたらしい。5年もかけてつくってくれたのだから、感謝しなければならない。どんなに歩きにくくても道があるだけでありがたい。
奥黒部ヒュッテの手前らへんで、Kと船には間に合いそうだなと話しているとき、僕が船の時間を勘違いしていたことが発覚する。10時発だと思っていたが、それは平の小屋側の時間で、僕らの乗る針ノ木谷側は10時20分だった。
それなら余裕やんと安心す。
8時半ごろ、奥黒部ヒュッテで水を汲むときに、小屋番の人に念のため時間を確認したところ、10時20分の船には今からここを出ても間に合わない、走ればギリギリ間に合うかもしれないが走れるような道じゃないと言われる。
走るのは嫌だったので、引き続きペースを落とさず歩くことにする。
たしかに高度感のある梯子のアップダウンが多くて走れるような道ではなかったけれど、9時40分ぐらいには平ノ渡場に着いたので少し時間を持て余す。
平の渡し船は10分ぐらいであっという前だった。
平の小屋でコーラを飲みながら濡れて重くなったテントなどを干して乾かす。
赤牛岳から約1400m標高を下げたので暑い。さらに五色ヶ原まで約1000m登り返さなければならないことが億劫で1時間ぐらいダラダラしていたけど、雨に降られるのも嫌なので歩くことにする。
太陽と風のない樹林帯の暑さにうんざりしながら歩く。昨日、三俣山荘で色々食べて行動食や食料が全然減らなかったので荷物もまだまだ重い。
3泊4日の装備でトレッキングポールを使って歩いているKが楽そうに見えてくる。
普段、人より荷物を軽く、楽して歩くことばかり考えているので、自分より身軽で楽そうな人を見かけることがあまりない。
暑さのせいなのか、いつもより重い荷物を背負っているせいなのかよくわからないが、自分より楽そうに歩いているKに理不尽だなと思いつつも無性に腹が立ってきて、
仮にさ、僕は日程に余裕があるし明日は黒部五郎まで行かなくてもいいから、五色ヶ原でのんびり寝たい。だから、明日からひとりで歩いてきてって言ったらどうする?
とKに言うと
しばらく沈黙してから
それは萎えるな、明日が一番長い一日なのに…
と、心が通じ合えたと思ったのに、じゃあねと立ち去られたペットショップの仔犬のような声で言うので、
冗談!冗談!明日も一緒にがんばろう!
と自分自身も鼓舞するように言う。そして、荷物が重いときは、トレッキングポールを絶対に持っていこうと誓う。
14時半ごろ、あまりの暑さに何度も休憩したので予定より遅れてしまったけど、なんとか雨に降られる前に五色ヶ原に到着する。
テン場近くの沢が枯れていた。2023年の北アルプスは雨があまり降らなくて、水不足が深刻だと三俣山荘でも聞いた。歩いているとき、雨に降られないことは嬉しいことだけど、枯れた沢を見ると悲しくなる。
受付を済ませてテントを設営していると雨が降ってくる。各々テントの中で食事することにする。
17時過ぎぐらいに雨が止み、Kがやってきて、明日は11時ぐらいから雨が降る予報だから出発を早めようと提案してくる。
雨が止んで晴れ渡った空に虹がかかった五色ヶ原の美しさに感動して元気になっていたので、いいよと答えると、
じゃあ、1時出発で!
お、おう…
夕焼けを眺めてから、19時前ぐらいには寝るかと各々テントに戻る。
(第三話へ続く)
Written by : Yoshihiro Nakatsuchi