海千山千會
丹波 銀鈴 千鈴
狐妖怪を祓う
寄り添う友の音
山で鈴といえば熊鈴が思い出される。
今あなたのテリトリーにお邪魔しているよと動物たちに伝える用途で使われる。
けれどぼくは目に見えない海千山千の狐狸妖怪を祓うような鈴を作りたいと思った。
熊も怖いけど、心の中にいる恐怖を和らげる鈴がぼくたちには必要だった。
持つ人に寄り添い、寂しい時に力づけてくれるような鈴。
そんな想いをイソガワクミコはかたちにしてくれた。彼女は一言で言うと鈴に魅せられた人だ。
丹波篠山で田畑山河に囲まれた古民家の台所の横に工房がある。時間が止まったようなひっそりとした作業場で、イソガワさんは銀を溶かし一から手仕事で鈴を作られている。
機械で作られたようなまったく同じ形状のものはない、それゆえ音色も少しづつ違う。
鈴はお守りでもあり、人生の合図でもあると彼女は言う。
ぼくたちの思い描いた以上に男らしいこの千鈴(ちりん)が出来上がった。
海千山千會 千代田高史
令は深い儀禮用の帽子を被り、跪ゐて神託を受けてゐる人の形。鈴は神を呼び降し、神を送る時に用ゐられる樂噐であったが、令は鈴の音を形容する物であろう。ー白川静鈴は日本で五丗紀頃に始まる乘馬の習慣と關わりが深い様だ。
六丗紀前半の出土とされる重要文化財の埴輪馬に扵ても、轡に鈴附鏡板、胸繋に馬鐸、尻繋には鈴杏葉と云う鈴がそれぞれ意匠されて居る。
飛鳥寺埋葬物の銅鈴は吊り下げる耳を持ち、馬具の一部の馬鈴で在ると考ゑられて居る。表靣に粒狀の小さい突起と線模樣が描かれた?銅製の馬鈴は他でも出土し、中國では馬鈴に似た形の芋を馬鈴薯と云った。
此の様に鈴にはアニミズム、神亊、樂器、威嚇、馬具、佛?などと歷史上關わりを持ってゐた亊が分かって居る。
さて千鈴は板狀の鈕が附ゐた楕圓球形で、大凡室町期の馬鈴を模した物だ。攜帶性に配慮して小振りにし、鐵の様にカラコロでは無く、?純度の銀製なので凜とした奇麗な音がする。
日常的に馬に乘る亊の無い貴方の爲に作った馬鈴と云ゑよう。
Do you know me? デカケルトキハ、ワスレズニ。
海千山千會 立沢トオル
▲掌の内の花#1 丹波 銀鈴 千鈴 / イソガワクミコ
作家紹介
■イソガワクミコ
1974年愛知県生まれ
ヒコ・みずのジュエリーカレッジにて彫金を学び 出産をきっかけに自然豊かな沖縄・石垣島に移住、様々な経験と共に鈴を製作する。
現在は生活を兵庫・篠山に移し制作を続けている。
SPEC / 商品スペック
直径 : 約26mm
COLUMNコラム
模様の違いでここまで印象が違うのかと嬉しくなる新しい千鈴が出来上がった。
男っぽく荒々しくも見えるし、女性の艶っぽさも感じられるようだ。 見る環境によってそれぞれ違う。暗闇の中響く音か、日中乾いて響く音なのか 様々な持ち物につけて聴き比べてもらいたい。
この模様の千鈴は今だけしか作られない。 五十川久美子という人間が作る その季節だけの味が滲み出る逸品に他ならない。
writing / Chiyo