僧侶が差し出す鉄鉢(てっぱち)を海千山千會で現代に蘇らせたいと立沢さんと動き出したのは2017年の春だったと記憶している。素材は何がいいか。チタンかアルミか、それとも複合素材か。最新の材料と最新の技術をひとつひとつ3年かけて検証した。それで最終的に”極薄の鉄”を”数千回打ち出す”という工法に辿り着いた。導きを頼りに旅をしたこの工程は本当に面白い経験だった。
本物の僧侶が托鉢に使うサイズにこだわったものが
タビ鉄500だ。0.75合の飯を炊けて皿としても使いやすい。一人分のおかずを簡単に焼いたりオーブンに放り込むのに最小のサイズだ。
タビ鉄750は炒めることが得意だ。
アルファ米に飽きたULハイカーに嬉しい
肉や卵を豪快に焼ける。
道の駅で手に入れた山菜も
ごま油が少しあれば最高の晩メシに変化させることができる。
どちらも鉄を育てる過程も楽しめる。
お湯を沸かすだけなら他のクッカーを見てみるといいだろうが1人分を焼いたり炒めたり、そして時に炊いたりはタビ鉄に任せてもらいたい。
海千山千會 千代田高史
タビ鉄は鉄の調理器だ。鉄は人類の歴史上よく利用してきた金属だ。
人は鉄によって人口を増やすことに成功し、
動物や人の生命を奪うために鉄器を利用してきた。人類にとって重い想いのある金属だ。
山田工業所という戦後から鉄の中華鍋を作り続けている会社がある。
常温の鉄をハンマーで打出して鍋やフライパンを作る。単純な工程だけに打出しは職人技に支えている。
プレスでは出来ないことが、
山田工業所の鍋には詰まっていて、玄人や愛好家の支持を得ている。
また鉄は再生利用価値が高く、修理が出来ることも知られている。
時代を経て育った中華鍋やフライパンは料理人にはかけがえもない。
修理も山田工業所の仕事のひとつとして取り組まれているそうだ。
鉄には重いイメージがあるが、強度があるので薄く作れる。単純に
物事を考えてはいけない。熱伝導率も然り。
厚い鉄は蓄熱性に富み、
肉塊を焼くことが出来るが、風の影響下で弱い火の調理は難しい。
強火で鍋を揺すりながら炒め、手早く済ませるなら薄い鉄鍋になる。
鉄は錆が出やすい。まずスープを食べた後に炒めものを作るとする
という具合にすれば良いと思う。皮が育ってくれば錆にも強くなる。
UNHALFDRAWING 立沢トオル

企画
■UNHALF DRAWING
海千山千會同人の立沢トオルによる”再生”をテーマにしたプロジェクト。
BonzaipaintやTRANSIENT EXISTENCEは時を経てなお熱烈なファンを持つが
UNHALF DRAWINGは立沢の現在思考、グラフィックワークを知るための道しるべとなるだろう。
制作
■山田工業所
金型を一切使わず鍛造の「打ち出し製法」にこだわり中華鍋を主に制作をする
中華料理人に絶大な信頼を持つ唯一無二の町工場。神奈川県横浜市。